アルバイトに懸ける
基本的に,株主資本を食いつぶした,すなわち債務超過となった企業は存続できません。
それが存続できるのは,債務超過が一時的なもので将来には回復すると期待されている場合だけです。
すなわち将来を予測してみると,株主資本は増大に転じるが,現時点で「会計上は」債務超過になっていると判断されている場合です。
負債資本による調達には,金融機関等からの借入,社債発行,コマーシャル・ペーパー(CP)発行等があります。
受取手形割引や売掛金ファクタリングは,手形や売掛金が現金化されるように会計処理され,貸借対照表上に負債として計上されません(オフバランスといいます)。
しかし,経済的には,手形や売掛金を担保にした短期借入と同様の性質を持ちます。
負債資本によって調達された資金は,返済額,返済期日,支払利率(固定であれ変動であれ),利払日が契約によって定められます。
そして,企業が事業から上げる成果の大小にかかわりなく,契約通りの利払と元本の償還が実施されます。
事業の成功とは,事業活動によってキャッシュが増加することをいいます。
企業の費用を賄うだけの売上高がないとき,または第1章のグラント社のように投下資本が著しく増大しているとき,事業活動によってキャッシュが減少します。
この減少分は株主資本または負債資本で調達される必要があります。
仮に,負債比率過大のため金融機関の追加融資が受けられない状態で,かつ株主資本での調達もできないとすると,企業は負債資本について,契約通りの利払と元本返済ができなくなります。
これを債務不履行(デフォルト)と呼びます。
債務不履行が発生する可能性あることが,負債資本提供者にとってのリスクとなります。
企業が発行する社債やコマーシャル・ペーパー(CP)については,ムーディーズやスタンダード・アンド・ファース等の格付機関が,債務不履行に陥るリスクを検討し,格付けを行っています。
リスクが高い企業ほど格付けが低くなり,負債資本の調達コスト,すなわち支払利率は高く設定されます。
事業活動を行うためのインフラストラクチャーへの投資を,資本的支出といいます。
設備投資が代表的です。
また,研究開発投資,新規事業参入のための投資等も資本的支出と考えられます。
「会計上の利益」計算では,資本的支出についてさまざまな取り扱いがされています。
例えば,日本の会計原則では,試験研究費(新製品または新技術発見のために行う試験研究のため特別に支出した費用)について,資産計上して償却する方法と一括費用処理する方法の両方を認めています。
また有形固定資産の減価償却費の計算方法でも,定額法,定率法等の複数の方法が認められています。
さらに,「正当な理由」があれば,一度採用した計算方法を変更することも可能です。
同一内容・同一金額の資本的支出でも,採用する会計処理基準によって算定される利益は異なります。
一方で,キャッシュフローの観点からは,支出したときのキャッシュ流出として捉えられます。
これが変化する余地はありません。
事業のインフラストラクチャーへの投資以外にも,事業活動に必要な投資があります。
例えば製造業の場合は,原材料を購入し,加工し,販売するわけですが,一般的に原材料の購入代金支払は,売上代金の回収より先行します。
ということは,支払った資金が棚卸資産や売上債権となって寝ている間のつなぎ資金が必要になります(図2-2)。
言い換えれば,営業活動に必要なつなぎ資金への投資が必要なのです。
これを運転資本(または必要運転資本)といいます。
次の2種類の計算方法が一般的です。
売上債権=受取手形十売掛金 仕入債務支払手形十買掛金 なお,受取手形割引や売掛金ファクタリング(売掛金の割引)の残高はオフバランス取引の一種であり,貸借対照表に計上されません。
しかし,これらを加算する方がより正確です。
外部から分析する場合,これらの残高は貸借対照表の注記報から知ることができます。
この売上債権,棚卸資産および仕入債務について,取引高と比較してその効率性を見ます。
例えば,売掛金残高を年間売上高で除して,年間日数である365を乗じたものを売掛金回転日数と呼びます。
これは,売上高何日分に対応する売上債権を持っているかを表すものです。
棚卸資産や仕入債務の回転日数を求める時は,売上高に限らず,売上原価,仕入高等が使われます。
分母に何を使うかで,それぞれ指標の持つ意味が異なってきます。
基本的に,棚卸資産の場合は,その原価を構成する取引高を分母とします。
例えば,材料であれば材料購入高,仕掛品であれば製造費用が分母になります。
仕入債務の場合は,やはりその債務発生の原因となっている取引高を分母とするのが基本です。
ともかく回転日数は,企業が,分母とした取引高の何日分に対応する,債権,財務,棚卸資産を持っているかを示しています。
売上債権回転日数に棚卸資産回転日数をプラスして,仕入債務回転日数をマイナスしたものを運転資本回転日数といいます。
また,キャッシュ・トゥー・キャッシュ・サイクルタイムと呼んだりします。
第1章のグラント社の例でも,この日数が重要な指標として,登場しています。
運転資本回転日数は,短い方がベターです。
製造業では運転資本回転日数が正の値となることが一般的ですが,この状態の下では,売上高成長に伴って,必要な運転資本の金額も増大します。
また運転資本回転日数が長いほど,その影響は大きくなります。
この日数を管理することが,キャッシュフローの向上のために重要です。
その目指すところを簡単にいえば,「支払はできるだけ遅く,回収はできるだけ早く,そして在庫はゼロ」となります。
売上債権回転日数を決定する主な要因は,得意先からの売上代金回収条件です。
回収期間に応じて金利が賦課されない限りは,当然,回収が早い方が望ましいといえます。
棚卸資産回転日数を決定する要因は,仕入先の体質,製造工程の生産リードタイム,物流プロセスのリードタイム,供給リードタイムと顧客が求める納期との関係,在庫保有方針等,さまざまです。
棚卸資産回転日数も,通常は短い方がベターです。
ジャストインクイム生産方式の本家本元であるトヨタ自動車はこの日数が短いことで有名です(1998年3月期の棚卸資産回転日数29日,棚卸資産÷売上原価×365,連結ベース)。
仕入債務回転日数は売上債権とは逆に,仕入先に対する仕入代金の支払条件に左右されます。
支払条件を設定するにあたっては,業界の商慣習や,取引先との関係を考慮する必要があります。
下請企業に対するあまりにも長い支払条件などは,社会的に問題があり,法令(下請代金支払遅延防止法)で規制されています。
ここで食品スーパーの運転資本回転日数について考えてみましょう。
それは正の値でしょうか。
それとも負の値でしょうか。
スーパーの売上は通常レジで入金され,その場で回収されます(クレジットカード売上についてはここでは無視します)。
この場合の売上債権回転日数は,ゼロです。
次に在庫です。
生鮮食品は長期間の保存がききませんし,新鮮なものでないとお客様も購入してくれません。
冷凍食品,保存食品はそれなりに保存はきくでしょうが,やはり古いものは敬遠されます。
商品の種類によって差がありますが,全体としてみれば,食品スーパーの在庫回転日数は10日以内であることが多いでしょう。
この例では10日にします。
では仕入債務はどうでしょうか。
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